──翌日、放課後。
カップの中のミルクティーが、ほんの少しだけ冷めている。
カフェの窓際の席で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
通りを歩く人々、車の音、行き交う制服姿。
まるで、自分だけがここで時間を止めているような錯覚に陥った。
今日も、放課後は一ノ瀬くんと待ち合わせをしている。
──とはいえ、正式な約束があったわけではない。
ただ、前回の帰り際に「また来るかも」と言った彼の言葉を、わたしは信じていた。
ただ、それだけ。
「ごめん、ちょっと遅れた」
扉のチャイムとともに、一ノ瀬くんが駆け足でやってきた。
額に汗をにじませて、少しだけ乱れた髪を手ぐしで直している。
「ううん、大丈夫。私も……ちょっと早く着いてたから」
わたしたちは向かい合って座り、いつものようにノートを広げた。
隣のテーブルからは、女子高生グループの笑い声が聞こえてくる。
けれど、わたしの世界は、今、この机の上だけで完結していた。



