「一年か。あいつと、ちゃんと続いてるんだな」

「……うん」


わたしはうなずいたけれど、白石くんの目はどこか遠くを見ていた。

エレベーターの中の空気が、すっと冷たくなった気がした。


「別に、何かあるわけじゃないけどさ……」


彼がぽつりと続けた。


「……もし、再会するのがもっと早かったら、俺が佐倉さんの隣にいられたのかなって、たまに思うんだ」

「……え?」


思わず顔を向けると、白石くんはエレベーターの扉を見つめたまま、表情を変えなかった。


扉が開き、塾のフロアに着いたのに、わたしはすぐには動けなかった。

心が、動揺していた。


白石くんの声は、どこまでも穏やかで、強くも優しくもなかった。

でも、その言葉の奥にある本当の気持ちに、わたしは気づいてしまった。


わたしが何かを返す前に、彼は歩き出していった。

その背中を、わたしはしばらく見つめていた。