年末の空気は、どこかせわしなく、でも特別な静けさも帯びていた。


駅前の街路樹には、クリスマスの名残がまだ残っていて、ところどころに電飾が揺れている。

けれど、あのきらびやかな夜から数日が過ぎ、気づけば年の瀬。

今日が、今年最後の塾の授業だった。


わたしは、いつものように文具店の角を曲がり、塾のビルへと歩いていった。

空はどんよりとしていて、風が頬を刺すように冷たかったけれど、心の中はあたたかかった。


――だって、あの日、遥くんと初めてキスをしたのだ。


思い出すだけで胸がぎゅっとする。

小さな、でも確かな一歩。

わたしたちは、また少し、大人になれた気がしていた。


「……佐倉さん」


塾のエントランスに入ろうとしたところで、声をかけられて振り返ると、そこには白石くんがいた。

グレーのパーカーの上に黒いダウンを羽織り、手には教科書とノートが入ったファイルを持っている。


「こんにちは」

「よ。年末でも真面目だな、佐倉さんは」

「白石くんも、でしょ?」