「いいなあ。なんか、佐倉さんって、放課後もちょっと大人っぽいよね」
「そんなこと、ないよ」
「あるある」
岸本さんは楽しそうに笑って、また少しだけわたしとの距離を縮めてきた。
笑われているのではないことを感じている。
それが、少しうれしかった。
──その日の放課後。
文具店の扉に下げられた小さな「営業中」の札をそっと押して、わたしは店の中へ入った。
落ち着いた照明と、木の棚に並ぶ丁寧に並べられた文房具。
古さのなかにあたたかみがある、小さな街の文具店だった。
制服姿のわたしに、奥から優しい声がかかる。
「おかえり、ひよりちゃん。今日もよろしくね」
中原沙月さん。
大学生の先輩バイトで、わたしのあこがれのような人だった。
「はい、よろしくお願いします」
「今日さ、例の修正テープの在庫チェック、お願いしてもいい?」
「もちろんです」



