次の日、下校時間。
「待った?」
「ううん、ちょうど今出てきたとこ」
校門前で待ってくれていた一ノ瀬くんが、わたしの言葉に笑顔で首を振る。
「……手、つないでもいい?」
「うん」
自然と手が伸びて、彼の手に重なった。
あたたかい。
だけど、以前よりもずっと落ち着いたぬくもりだった。
「最近小テストばっかで現実に戻された感が半端ないよなあ。修学旅行が懐かしいよ」
「うん。あっという間だったよね」
「……佐倉さんが笑ってるの、けっこう好きなんだ」
「え、なに急に」
「いや、思っただけ」
わたしの顔がまた赤くなる。
それを見て、彼は嬉しそうに笑っていた。
わたしたちは、ゆっくり歩きながら、何でもない日常を重ねていく。
秋の風が、制服の袖をなでるように吹き抜けた。
葉っぱの色が少しずつ変わり始めていて、空の色もどこか高く、遠くなったように感じた。
歩道の脇で足を止めて、わたしはぽつりと呟く。
「……わたしたち、ちゃんと前に進んでるんだね」
一ノ瀬くんが、小さく頷いた。
「うん。たぶん、ちょっとずつ、だけどな」
「それでも、うれしい」
彼の手のぬくもりが、ちゃんとそこにある。
わたしたちは、変わっていく。
でも、きっと、大事な想いは変わらず、ここにある。



