修学旅行が終わって、数日が経った。
旅の余韻は、まだ教室のあちこちに残っていた。
いつもの朝のホームルーム前、誰かが笑いながら「写真見せて」と言えば、隣の席から「それはダメ!寝癖ひどい日!」と返ってくる。
どこか浮ついた空気が教室を包んでいた。
「……ちょっと非日常だったよね」
わたしがぼんやり呟くと、一ノ瀬くんがとなりで「うん」と小さく頷いた。
黒板には、日直が書いた「来週から小テスト再開」という文字が浮いて見える。
わたしたちの時間が、また現実に引き戻される準備をしているようだった。
紗英ちゃんは今朝も教室に入るとすぐに、柊くんのところへ何か話しかけに行った。
その背中を見ながら、わたしは自然と微笑んでいた。
「ちょっとずつ、変わってきてるかもね」
一ノ瀬くんが、わたしの視線の先を読み取ってそう言った。
「うん。たぶん、二人の距離が少しずつ、ね」



