「うん、そうだね。……でも、すごいなって思うよ。ちゃんと、未来の自分を思い描いてるから」

「そうかな。でもさ、誰かと一緒にその未来を歩けるかって考えたとき……やっぱり、ひよりのこと、考えるよ」


小さく、はにかむように笑う彼の顔を、わたしは真っ直ぐに見つめた。


「……わたしも」


それだけしか言えなかったけど、心の中で何かが温かく、ほどけていくのを感じた。






夜、女子部屋に戻ると、紗英ちゃんがそっと声をかけてきた。


「ねえ……今日、柊に、言われた」

「うん、やっぱり」

「……嬉しかったけど、答えられなかった」

「そっか」

「私たち来年は受験生だし、柊は部活も頑張ってるでしょ?私ってこういう性格だから、忙しくて会えなくなったり、すれ違ったりしたとき、きっと柊のこと責めちゃうと思うんだ。だから、今すぐに付き合うとか、考えちゃって」


わたしは、何も言わずにそっと彼女の手を握った。


「紗英ちゃんがちゃんと考えたなら、わたしは応援するよ。だけど、後悔だけはしてほしくない」

「……ありがとう」


その夜、わたしたちはいつもよりも少し長く起きていた。

灯りを落とした部屋の中、いくつもの想いが、やわらかな闇の中でゆっくりと形になっていく気がした。


誰かを想うこと。

言葉にすること。

言葉にできなくても、想っていること。


それが、こんなにもまぶしくて、温かいものだったなんて。