「……なーんてな、言ってみたかっただけ」
そう言って柊くんは照れくさそうに笑って誤魔化したと、紗英ちゃんは言っていた。
でも、その目は、ちゃんと真剣だった。
紗英ちゃんは、嬉しかったと言っていた。
でも、答えが出せなくて、自分に少し腹が立ったとも。
その日の夕方、旅館に戻るバスの中で、私と一ノ瀬くんは窓側の席に並んで座っていた。
カーテンの隙間から、夕焼けが見えた。
「……この景色、なんかすごいね」
「うん。なんか、旅って感じがする」
わたしたちはしばらく無言だったけれど、その沈黙は心地よかった。
ふと、一ノ瀬くんが言った。
「ひよりはさ、将来のことずっと考えてるじゃん。方向性は決まってきた?」
突然の問いに、わたしは少しだけ驚いた。
「……わからない。まだ、ちゃんとは決まってない。でも、誰かの役に立てるようなこと、できたらいいなってことくらい」
「そっか。……俺だって、やりたいことは決まってるけど。問題は残ってるし、お互い悩みは尽きないな」



