修学旅行、二日目の朝。
旅館の窓から差し込む朝の光に、まぶたをゆっくりと開ける。
ふと横を見ると、紗英ちゃんはまだ眠っていた。
小さく寝息を立てながら、髪の毛が少し顔にかかっている。
昨日の夜、みんなで恋バナをしていたときの、あの紗英ちゃんの笑顔。
それから、時おり見せた真剣な眼差しが、頭から離れなかった。
「……朝か」
つぶやいて起き上がる。
少しずつ起き始める友達たちの気配を背中で感じながら、今日はどんな一日になるんだろうと、わたしは思った。
朝ごはんのあと、班別行動が始まった。今日の目的地は奈良。
クラスのバスで移動して、そこから班ごとに自由行動になる予定だ。
わたしたちの班は、東大寺と奈良公園を回ってから、近くの古民家カフェに寄る計画を立てていた。
「鹿、めっちゃいるな」
柊くんがポツリとつぶやく。
確かに、どこを見ても鹿だらけだった。
観光客が買った鹿せんべいを狙って、鹿たちがわらわらと寄ってくる。



