「……もし、逆だったら、わたしも嫌だったと思う。なのに、気づいてあげられなくて、ごめんね」
「……謝らないで。ひよりのこと、信じてたし。でも……自分の気持ちにも、ちゃんと向き合いたいって思った」
「うん……ありがとう」
わたしは、一ノ瀬くんの手をぎゅっと握り返した。
「じゃあ、迎えに来てくれたときだけ、一緒に帰ろ?」
「うん」
「それ以外の日は、白石くんとは、帰らないようにする」
「……いいの?」
「うん。……わたしも、やっぱり一ノ瀬くんに、そういう思いさせたくないから」
一ノ瀬くんは、ほっとしたように笑った。
「……ありがとう。好きだよ、ひより」
「……わたしも」
夕暮れの光が、川面に反射して、金色の粒になってきらめいていた。
夏の終わりは、少し切ないけれど――
それでも、ちゃんと前を向ける気がした。
わたしたちは、もう一度、お互いの気持ちを確認し合えたから。
手をつないだまま歩く帰り道。
あたたかな風が、ふたりの間をすり抜けていく。
その風に乗って、小さな決意が、胸の奥にしみ込んでいった。



