空は、夕焼け色に染まりはじめていた。
「……帰る前に、少し寄り道してもいい?」
彼がぽつりとつぶやいた。
「河原、近いから。ちょっとだけ、風に当たろう」
「……うん」
カフェを出て、ふたりはゆっくりと歩き出した。
川沿いの道は、人通りも少なく、風が心地よく吹いていた。
並んで歩いているはずなのに、わたしたちの間に生まれる“間”が、不思議と居心地よい。
ふたりで、ベンチに腰掛けた。
でも、すこしだけ距離を空けて座る。
沈黙が続いて、でも、それは拒絶のそれではなかった。
夕焼けが、空と川を同じ色で染めている。
風がひよりの髪をそっと揺らした。
何も話さない一ノ瀬くんが、前を見たまま静かに座っている。
その姿を、わたしはふと見つめた。
——この時間が……終わってしまうとしても
今だけは、願ってもいいと思った。
ふたつの影が、ベンチの後ろに長く伸びている。
この時間がずっと続くわけじゃない。
それでも今、こんなふうに誰かと同じ空を見ているだけで、なぜだか泣きそうになった。



