午後はみんなでスイカ割りをして、写真を撮って、お土産も少しだけ買った。
プリントされた貝殻のキーホルダーを、私はこっそりカバンの奥にしまった。
帰り道、紗英ちゃんがこっそり私の耳元でささやいた。
「よかったね、ふたりになれて」
「……ありがとう」
「でも、また隙があったら、ふたりきりにさせてあげるからね?」
「も、もう充分だよ……!」
そんな他愛もない会話さえ、今日は全部宝物のようだった。
太陽が海に沈むころ、私たちは帰りのバスに揺られていた。
車内は一日の疲れで静かで、私と一ノ瀬くんは肩を並べて座っていた。
「……今日、来てよかったね」
「うん」
「また、こうやって遊べたらいいね」
「また夏が来たら、行こう」
その言葉に、わたしは小さくうなずいた。
だけど――
その約束が、当たり前に続くものじゃないことを、私の心は少しだけ知っていた。
進路のこと、夢のこと。
考えなければいけない現実は、すぐそばまで迫ってきている。
でもそれでも、今だけは。
この瞬間だけは。
隣にいてくれる一ノ瀬くんのぬくもりに、身をゆだねたかった。
わたしの夏が、はじまっていた。



