でも――。


「……ねえ、一ノ瀬くん」

「うん?」

「……進路のこと、悩んだりしないの?」


一ノ瀬くんは少し驚いたように眉をあげた。


「悩まないって言ったら、嘘になる。でも……やっぱり、俺は建築がやりたいって気持ちは変わらない。親とは衝突してばっかだけど」

「すごいな、そうやって、ちゃんと夢があるの」

「……ひよりは?」

「わたしは、まだ……。行きたい学部も、やりたいことも、何となくしか見えてない。迷ってる間に、みんながどんどん前に進んでる気がして」

「焦る?」

「うん。……ちょっとだけね」

「……俺は、ひよりに置いていかれたくないって思ってたけどな」

「え……?」

「同じだよ。そう思ってたのは」


ぎゅっと、手を握られた。

人差し指と中指の間まで、ぴたりと重なるように。


「……ありがとう」


潮風がふたりの間を抜けていって、髪がゆっくりと揺れた。