「……二人きり、になっちゃったね」
「うん。でも、嬉しい」
わたしたちは波打ち際まで歩いた。
冷たい水が足元をさらっていく。
「こっち、来て」
一ノ瀬くんが手を差し出してくれて、私はその手を取った。
つないだ手は、海の水よりもあたたかかった。
「ひよりの水着、かわいい」
「っ……な、なにそれ、急に……!」
「本当のこと言っただけ。ずっと言いたかったけど、今がチャンスかなって」
「そうじゃなくて……っ、な、名前……っ」
「ダメだった?」
「ダメじゃないけど……」
「ずっと名前で呼びたかったんだよね。ひよりって」
嬉しいくせに、うまく返せなくて、私は波の音をごまかすように足元を見た。
一ノ瀬くんといると、何気ない言葉が、心の奥にじんわりしみてくる。
この瞬間が、ずっと続けばいいのに。



