窓際の席に案内され、ふたりは向かい合って座った。


カップを持つ手が、少し震えている。

けれど、視線はちゃんと遥の目を見ていた。


「……こういうの、初めてかも」

「こういうの?」

「誰かと放課後に……こんな風に、どこかに寄るとか」


わたしがそう言うと、彼は少しだけ目を丸くした。


「なんか意外。もっと友達多いのかと思ってた」

「いないわけじゃ、ないけど……」

 
わたしは言葉を濁す。


「そういうの、苦手なんだ。うまく話せないし」

 

一ノ瀬くんは頷くようにカップを傾けた。


「俺も似たようなとこあるよ。家では“話せる長男”みたいな役割だし、学校では“明るい優等生”って思われてるし」

「……違うの?」

「まあ、そう見せてるだけ。たまには静かなのも、いいよな」

 

わたしたちの間に、少しだけ柔らかな空気が流れる。

沈黙が訪れても、それが気まずくないことに、わたしは気づいていた。


——今……すこしだけ、わたしは、安心してる。