塾の自習室は、夏の午後の熱気を含んだ静けさに包まれていた。

エアコンの風が天井で回り、ペンの音とページをめくる音だけが規則的に響いている。


わたしは苦手な数学の問題と格闘していた。


数列の応用。

何度解いても、途中で式が崩れてしまう。


「……んー、なんでここでずれるんだろう」


小さくつぶやいたそのとき、隣の席に座っていた白石くんが、ふっと顔を上げた。


「そこ、たぶん最初の式の立て方がちょっと違うんだよ。見てもいい?」


彼はノートをのぞき込み、数式を指でなぞる。


「このa₁、間違ってないようで違う。等差数列っぽく見えるけど、実はちょっとだけ違う条件が入ってるだろ?」

「あ……ほんとだ」

「同じとこで前に俺もつまずいた」


柔らかい笑みを浮かべながら、彼は自分のノートを差し出してくれた。


整然と並んだ数式。

計算の横には、説明のメモが細かく書き込まれている。