紗英ちゃんがほんのり笑ったその表情に、なんだか胸がきゅっとなる。

わたしもついこの間まで、こういうやり取りに憧れていた。


だけど今は、それが日常になっている。

少しずつだけど、わたしたちは前に進んでいる。


そして、ふたりの距離も──少しずつ、でも確実に近づいているのかもしれない。


「紗英ちゃんも、がんばれ」

「……何それ。急に応援しないでよ」

「ふふ、でも本当にそう思ったから」


照れ隠しのように、彼女が「うるさいっ」と肩を軽く叩いてくる。


空はまだ曇っていたけれど、わたしの心には、すこしだけ日が射していた。


あの日、傘の中で感じたぬくもり。

雨の中で交わした言葉。


それは、ふたりの距離をもう一度近づけてくれた、やさしい雨だった。