手袋をしていなかったわたしの手が、彼の手の温度に包まれて、じんわりとあたたかくなる。


「……なんか、すごく落ち着くね」

「うん」


雨音が静かに響く中、わたしたちはしばらく無言で歩いた。

だけど、その沈黙はやさしくて、心を満たしてくれるものだった。


途中、信号待ちで立ち止まったとき、彼がふいに言った。


「このあいだ、佐倉さんがくれたバレンタインのチョコ、まだ残してある」

「えっ?まだ?」

「うん、食べたけど、最後の一個はなんとなく……もったいなくて」

「そ、それはちょっと恥ずかしい……」


顔が熱くなるのを感じて、慌てて彼から視線をそらした。

だけど、心の中はあたたかさでいっぱいだった。







数日後の放課後。

紗英ちゃんと一緒に帰る途中、ふと柊くんの姿が見えた。


「ねえ、紗英ちゃん。最近、前よりも柊くんとよく話すね」

「うーん、まぁね。なんか、柊は話しやすいっていうか……」


言いながらも、彼女の頬は少しだけ赤くなっていた。


「この前、偶然バス停で一緒になってさ。ちょっとだけだけど、話したんだ」

「へえ、なんて?」

「勉強のこととか、今度の中間テストとか……あと、ちょっとだけ、趣味の話とか?」