君の隣が、いちばん遠い



制服のシャツに濃紺のパーカーを重ね、片手に黒い折りたたみ傘。

雨粒を弾く音が、静かに響いている。


「迎えに来た。塾、終わる頃かなって思って」


驚いて何も言えないわたしに、一ノ瀬くんは傘を傾けてくれる。


「入って。風邪ひくよ」


心臓が跳ねた。

言葉にできない感情が喉の奥にたまり、ただ小さく頷いて彼の傘の中へと入った。


狭い傘の中。

肩と肩がほんの少しだけ触れそうな距離。

どきどきする心音を隠しながら、わたしは一ノ瀬くんと並んで歩き出した。


「……ごめん。わざわざ来てくれて」

「いいよ。雨降りそうだったし、なんとなくそんな気がして」

「すごいね、勘が」

「そりゃ、心配してたからね」


さらりと言われた言葉が、じわりと胸にしみた。

最近、なんとなくすれ違ってばかりで、わたしは少し不安になっていた。

お互い勉強や塾で忙しくて、前みたいにたくさん話す時間が取れなかった。