雨の匂いが、夕方の空気にまじっていた。
放課後に向かった塾の帰り、わたしはビルの入口で立ち尽くしていた。
空はすっかり灰色に染まり、ポツポツと降り出した雨粒が、アスファルトをじわじわと濡らしていく。
「……うそ。降るなんて聞いてないし……」
カバンの中を何度探しても、傘は見つからなかった。
確かに、家を出るときは空が晴れていて、天気予報も降水確率は低かったのに。
油断してた。
スマホを取り出して天気予報を開きながら、少しだけ溜め息をつく。
このまま走って帰ろうか。
いや、無理だ。
髪も制服も、すぐにびしょびしょになってしまう。
そう思ってビルの軒下に身を寄せたときだった。
「……佐倉さん?」
聞き慣れた声に顔を上げると、視界に傘の影が映った。
そこには、一ノ瀬くんが立っていた。



