君の隣が、いちばん遠い



数日後、昼休み。

一ノ瀬くんと、ようやくふたりで話す時間ができた。


「最近、全然ちゃんと話せてなかったよね」


わたしがそう言うと、一ノ瀬くんは少し困ったように笑った。


「ごめん。家のことでちょっと……」

「進路のこと?」

「うん。やっぱり、父さんは俺に会社を継いでほしいみたいで。でも、俺は……」


そこまで言って、一ノ瀬くんは言葉を切った。


「……建築、やっぱりやりたいんだ」

「わたし、応援してるよ」


気づけば、自然とそう言っていた。

どんなにすれ違っても、彼の夢だけは、わたしのなかでちゃんと大切にしたかった。


「ありがとう」


その一言に、わたしの胸のなかの重たさが少しだけ軽くなった気がした。

好きって気持ちだけじゃ、どうにもならないこともある。


でも、好きだからこそ、乗り越えようと思えることも、あるんだって。

そう思えたのは、たぶん一ノ瀬くんのおかげだ。


わたしは、今日も彼を信じて隣にいる。



そして――

これからも一緒にいられるように、わたしも変わっていきたい。