「ひより~、今日の放課後、空いてる?」
前の席から振り向いた紗英ちゃんが、明るい声をかけてきた。
いつものテンションに救われた気がして、思わず笑みがこぼれる。
「うん、たぶん。なんで?」
「ちょっと一緒に寄り道したくて。柊も来るけどいい?」
「うん、もちろん」
その名前を聞いて、ふと、最近のふたりの様子が頭をよぎった。
柊くんと紗英ちゃん。
ずっと仲のいい友達だったふたり。
でも、最近、ほんの少しだけ空気が変わった気がする。
言葉にできるほどはっきりしていないけれど、目線とか、間とか、笑い方とか――なんとなく、わかる。
わたしは、あの日、バレンタインのときに見た光景を思い出していた。
靴箱にこっそりとチョコを入れる紗英ちゃんの姿を。



