「……うん。今日、休みみたい」

「そっか。俺も来たけど、閉まってたって知ってたら、もうちょいゆっくり来たのにな」


そう言って、彼は少しだけ笑った。

その笑みが、わたしの緊張を少しだけ溶かした。

 

「この近くに、静かなカフェあるんだけど……行ってみる?」

 

突然の誘いに、一瞬言葉を失った。

けれど、不思議と「無理」とは思わなかった。


「……うん」

 

その言葉は、自分でも驚くほど自然に出ていた。

 

二人は、並んで歩き始めた。

少しだけ早歩きの一ノ瀬くんに、わたしが小さく歩幅を合わせる。


人通りの少ない路地を抜けてたどり着いたのは、古い木造のカフェだった。


ドアを開けると、ほんのりと甘い香りが漂ってくる。

客は数人だけ。BGMも静かで、まるで時がゆっくりと流れているような空間だった。