春の柔らかな陽射しのなか、新しい教科書のにおいがまだ慣れないカバンの中から立ちのぼってくる。

教室の窓から見える桜はほとんど散っていて、代わりに青く小さな葉がそよそよと揺れていた。


2年生になってから、わたしたちの毎日は少しだけ変わった。


文理選択の影響で、一ノ瀬くんとは一緒に受ける授業が減った。

わたしは文系、一ノ瀬くんは理系。

それぞれの将来に向けた選択だけど、思った以上に「同じ教室にいない時間」は静かに、でも確実に心の距離に影を落としていた。


最初は些細なことだった。


「ごめん、今日の帰り、塾寄ってからだから先帰ってて」

「ごめん、課題が終わらなくて返信できなかった」


そういう“ちょっとしたすれちがい”が生まれていく。

それが、少しずつ積み重なって、胸の奥に小さなざらつきを残すようになった。