少し、間があいた。
「……正直、寂しい」
彼の言葉が、わたしの心にふわっと入り込んできた。
「でも、別に離れるわけじゃないし。……俺は、佐倉さんといられる時間、大事にしたいって思ってる」
わたしはうまく言葉が返せなくて、ただ「……うん」とだけ、小さく頷いた。
春の教室には、新しい授業のプリントが配られ、黒板には進学に向けたスケジュールが細かく書き出されていた。
進路について、現実的な話が増えていく。
「夏にはオープンキャンパスも行っておこうなー」と久遠先生の声が響き、みんなが一斉にざわざわしはじめる。
──将来、どうしよう。
そう考えると、まだ真っ白なノートの表紙を見ているような気分になる。
わたしには、はっきりとした夢がない。
でも、一ノ瀬くんにはある。
あのとき、川沿いのベンチで話してくれた夢。
「建築家になりたいんだ」って、彼は言っていた。
祖父母の家が、彼の原点だったこと。
自分の手で、誰かの居場所をつくる仕事がしたいという思い。



