ほんの少しだけ、声に期待が混ざっているように感じた。

その笑顔に、わたしも小さく頷く。


「うん。またね」


いつの間にか、自然に返せていた。

たったそれだけの会話なのに、教室の空気が少しだけやわらかくなったような気がした。



気持ちが軽くなって、周りの景色を楽しむ余裕もあった。

けれど、図書館の自動ドアに近づいたとき──


「本日休館日です」という張り紙が、目に飛び込んできた。


「……あ」


思わず立ち止まった。

予定が崩れてしまった。

それだけのことなのに、足元がふらついた気がする。


——どうしよう……

——このまま帰る? でも、それは……。

 

「図書館、閉まってた?」

 

背後から聞こえた声に、心臓が跳ねた。

振り返ると、そこに立っていたのは──やっぱり、一ノ瀬くんだった。


制服の上着を脱いで腕に掛け、少し息を弾ませている。

もしかすると走って来たのかもしれない。