君の隣が、いちばん遠い



「……一ノ瀬くんは?」


問いかけると、彼は少しだけ視線を落として、ゆっくり話し始めた。


「俺、建築家になりたいんだ」

「えっ、そうなんだ」

「うん。小さい頃、祖父母の家に遊びに行ったとき、祖父が設計した家がすごく好きでさ。ああいう家を、自分も作りたいって思った」

「すごいな……。夢、はっきりしてるんだね」


わたしは正直、まだ将来のことがはっきりとは見えていない。

だからこそ、一ノ瀬くんの言葉がまぶしく感じた。


「でも、親は反対してる。父は医者で、俺にも継いでほしいみたいで……。家で話すといつも喧嘩になる」


彼の瞳が、少し曇っていた。


「でも、俺は、夢を捨てたくないんだ」


その言葉を聞いた瞬間、わたしは心の中で小さく誓った。

わたしも、ちゃんと自分の気持ちと向き合おう、と。