春めいた風が頬を撫でる中、一ノ瀬くんの隣に座る。
少しだけ遠くで川が音を立てて流れている。
鳥のさえずりと、どこかの子どもたちの笑い声。
すべてが、穏やかだった。
「最近、家の雰囲気が少しずつ変わってきたんだ」
そう切り出したわたしの声は、風に溶けそうに小さかったけれど、一ノ瀬くんはちゃんと頷いてくれる。
「叔父さんも叔母さんも、今は普通に話せるようになったし。美帆ちゃんともテレビを一緒に観たり、夕飯を手伝ったりするんだ」
「そうなんだ。よかったな」
彼の声も、あたたかかった。
「来月から、塾に通うことにしたの。バイトはやめることにして……勉強に集中しようと思って」
「すごいな、佐倉さん。ちゃんと前に進んでる」
それを聞いて、少し頬が熱くなる。
そんなふうに言われるような人間じゃないのに。
でも、うれしい。



