「うん。ちゃんと見てるよ」
美帆ちゃんはにこにこしながらパンをかじっていた。
なんだかその表情が少しうらやましくて、わたしは目の前のスープにスプーンを落とした。
わたしはまだ、はっきりとした夢がない。
文系でいくと決めてはいるけれど、どんな未来を描いているのかと聞かれたら、正直答えに詰まる。
「ひよりは、バイトでしょ? あんまり遅くならないでね」
叔母さんがわたしに微笑みかけた。
「うん、夕方には終わると思う」
バイト先はいつもの文具店。
最近は常連さんも顔を覚えてくれるようになって、少しずつだけれど居心地がよくなってきた。
ドアを開けて家を出ると、空気は冷たいのに、どこか春の匂いが混じっていた。
バイト先では、店長が店頭のポップを書き換えていた。
新しい春用のレターセットが並び始めていて、季節の変わり目を感じさせる。
「ひよりちゃん、最近また雰囲気変わったね。なんか、女の子って感じ」
先輩の沙月さんが、からかうように笑った。



