春が少しずつ去っていく音がする。
風はここちよくて、街路樹の満開だった桜はもうすっかり姿を消していた。
わたしは、放課後の昇降口で鞄を持ち直した。
授業は無事終わり、今日はアルバイトもない。
そうなると、自然と向かう先は決まっている。
──図書館だ。
家に帰るにはまだ早いし、教室に残っている理由もない。
静かな場所で、勉強をして、それからひとりで街を歩きたい。
誰にも見られずにいられる場所で、呼吸を整えるのは気持ちがよいから。
今日は、そんな予定だった。
教室を出ようとしたとき、鞄を手に立ち上がると、ふいに声がした。
「佐倉さん、もう帰るの?」
振り返ると、岸本さんが机に頬杖をついて、わたしを見ていた。
「……うん。ちょっと寄り道してから」
少しだけ視線を合わせながら答える。
岸本さんはにっこり笑った。
「そっか。じゃあ、また明日ね!」



