「進路って、自分のことのはずなのに……思うようにならないのが、悔しくて」
わたしはその背中に、そっと声をかけた。
「一ノ瀬くんの夢、大事にしてほしい。わたしも、まだ何になりたいかは決まってないけど……でも、自分で決めたって思えるようになりたい」
彼は振り返って、少しだけ笑った。
「ありがとう。佐倉さんにそう言ってもらえると、なんか、救われる」
あたたかい風が吹いたような気がした。
その日、わたしたちは帰り道をゆっくり歩いた。
もう日が落ちかけていて、街の灯りがぽつぽつと灯りはじめていた。
わたしたちは、また何も言わずに、そっと手をつないだ。
誰かが見ているかもしれない。
でも、それでもいいと思えるくらい、今この瞬間が、特別だった。
こうしてただ、一緒にいられること。
そのありがたさを、わたしは胸に強く感じていた。



