君の隣が、いちばん遠い



待ち合わせ場所には、もう一ノ瀬くんがいた。


黒いロングコートに、いつもより整えられた前髪。

少し緊張した面持ちのその姿に、わたしの心臓が跳ねた。


「……来た」

「うん、遅くなってごめん」

「全然。……あ、そのマフラー」


少しだけ頷く。


「……買ったんだ。前に巻いてもらったとき、あったかかったから」


一ノ瀬くんの頬が、ほんの少し赤く染まる。


「うん。やっぱり、似合ってる。正解だったな」


思わず、ふたりして笑い合った。


「はい、これ」


一ノ瀬くんが、紙袋を差し出した。


「えっ……」


中には、ふんわりした手袋が入っていた。

ベージュのウール素材で、指先に小さな刺繍が施されている。


「手、冷たそうだったから。……よかったら」


驚きつつ、鞄の中をごそごそと探る。


「わたしも……プレゼント、あるの」


わたしが取り出したのは、小さな箱。

中には、グレーの手袋が入っていた。