驚きと、少しの戸惑いがあった。

けれど、なぜか逃げようとは思わなかった。


「よっ」

軽く手を上げる遥の仕草に、自然と小さく会釈を返していた。

 

「……隣、座ってもいい?」


その一言は、とても自然だった。

過剰でもなく、気遣いすぎてもいない。


「……うん」

 
その返事が、いつの間にか口から出ていた。

 

椅子が静かに引かれ、ふたりが並んで座る。

同じ机、同じ空間。けれど、心の距離はまだ遠い。

 

わたしは、ノートを開いた。

ペン先が紙を滑る音だけが、時間の流れを感じさせる。


ふと、横から微かな視線を感じた。

でも見返すことはしなかった。

ただ、少しだけ手元に力がこもった。


無言の時間は流れ続けていく。

言葉を交わさず、ただページをめくる音だけが重なっていった。
 

時折感じる視線に、わたしがが小さく咳払いをすると。

一ノ瀬くんが、わかりやすく肩を揺らした。


横からの視線に気づかないふりをし続ける。

でも、ずっと頬があつかった。