夕方、ようやく練習が終わる頃、辺りはすっかり暗くなっていた。


「ひよりー! 一緒に乗ってかない? うちのママが来てるからさ!」


体育館前で紗英ちゃんが手を振る。


「ううん、大丈夫……」


断ろうとしたそのとき。


「──あ、来たみたい」


視線の先に、一ノ瀬くんの姿が見えた。

紗英ちゃんはその様子を見て、にやりと笑った。


「なーんだ、そういうことね〜。じゃあ、邪魔しません!」


言い終わるか終わらないかのうちに、車へと戻っていった。


「おつかれ」


一ノ瀬くんが歩み寄ってきて、少し息を白く吐いた。


「……ありがとう、来てくれて」


わたしは、かじかんだ指先を軽く擦るようにして胸の前で組む。

その様子を見て、遥がふいに自分のマフラーを外した。


「ちょっとだけ、我慢して」


そして、無言でわたしの首にマフラーを巻いてくれた。


「……っ」


暖かさよりも、その行為に胸がドキリとする。

顔が赤くなるのがわかって、わたしは視線を落とした。


「……ありがと」