「……でも、先生に“強さ”って言われたんです。自分で選べることが強さだって」


沙月さんはレジに商品を通しながら、ゆっくり頷いた。


「それ、すごく大事なことだと思うよ。誰かに決められた道じゃなくて、自分で決めた道って、ちゃんと歩けるから」


そこへ、いつものように文庫本を手に持った常連客、花岡さんが現れた。

わたしが笑顔で「いらっしゃいませ」と声をかけると、花岡さんは少し微笑んで言った。


「さっきの話、聞こえちゃったよ。……でも、“強さ”って、無理して持つもんじゃないよ」


目を見開くと、花岡さんはレジに文庫本を置きながら、続けた。


「自分の弱さを知ってる人のほうが、強い。俺はそう思う」


そう言って、ほんの少しだけ笑うと、いつものようにブラックのコーヒーを買って出て行った。


わたしは、カウンターに立ったまま、じんわりと胸の奥が温かくなるのを感じていた。

いろんな人の言葉が、いま、そっと背中を押してくれている気がした。






バイトが終わり、帰宅したわたしは、夕飯の支度をしている叔母の背中を見つめながら、深呼吸をした。


「……あの」


包丁を止めて、叔母さんが振り返る。


「どうしたの?」