「また寒かったら言って。俺、貸すから」
その一言が、じんわりと胸をあたためた。
「……ありがと」
思わず笑ってしまった。
そのとき。
「あれ? ひよりちゃんじゃない?」
後ろから聞き慣れた低い声がした。
振り返ると、そこには花岡さんの姿があった。
文庫本と紙袋を手に持ち、相変わらず落ち着いた雰囲気。
「こんにちは。……あれ、もしかして彼氏?」
花岡さんが冗談っぽく笑いながら言うと、わたしは慌てて手を振った。
「ち、違います! ただの……友達です」
「そう?」
花岡さんはちょっと驚いたように、そして少しさびしそうなように笑った。
「最近、雰囲気変わったなって思ってたんだ。落ち着いたっていうか……もしかして恋でもした? って」
「……え、そんな……」
顔を赤くしながら視線を逸らす。
そんな自分の様子を見て、花岡さんは「うん、やっぱりそうか」と満足げに頷いた。



