金曜の昼休み、職員室前の廊下でわたしは一ノ瀬くんと並んで立っていた。

呼び出したのは担任の久遠先生だった。

紅茶の香りが微かに漂うその空間に、先生の軽快な声が響く。


「頼まれてくれないか? 明日、うちの学校で県内の先生たちの研修があってさ、使う視聴覚室を軽く整えておいてほしいんだ。教頭先生からのお願いでな」

「了解です」


一ノ瀬くんがすぐに頷く。


「佐倉さんも一緒にお願い。ふたりなら静かに丁寧にやってくれそうだし」

「……はい」


視線を落としたまま、小さく返事をした。


放課後、視聴覚室には誰もいなかった。

ほこりを払ったり、椅子の整列をしたり、空気の入れ替えをしたり。

そんな地味な作業のひとつひとつに、ふたりの息は不思議と合っていた。


「ほこり、すごいな」


窓を開けながら一ノ瀬くんが苦笑する。


「……でも、ここ、好き。音が響かなくて、静かだから」

「佐倉さんっぽいかも」