また別の日。
わたしは、放課後に一ノ瀬くんと待ち合わせをしていた。
行き先は決めていなかった。
けれど、一ノ瀬くんは駅前の書店をふらっと指差して、「ちょっと寄っていこうか」と言った。
本屋の文庫コーナー。
わたしたちは隣り合って、背表紙を眺めていた。
「これ、前に読んだやつ。意外と良かったんだよね」
一ノ瀬くんが差し出したのは、小さな恋愛小説。
わたしはその表紙に見覚えがあって、少し笑う。
「わたしも、それ読んだ。……なんか、最後のシーン、やさしかった」
「だよな。ああいう静かなラスト、俺、けっこう好き」
「こういう小説、読むんだね……ちょっと意外」
「ま、母親の影響。昔から家にいっぱいあってさ」
本を一冊ずつ手に取って、そのままふたりで川沿いの公園まで歩いた。
風が少し冷たくなっていて、木の葉が舞っていた。



