「わぁ……おしゃれすぎない?」
「っていうか、ほんとに生活感ないな〜。この家」
「母さんがきっちりしてるからな」
一ノ瀬くんが苦笑しながら、温かいお茶を差し出してくれた。
わたしはおそるおそるノートを広げ、柊くんの横に座った。
「で、どこが一番わからない?」
「文法全部!」
「……それはちょっと、ざっくりすぎる」
そんなやり取りから、自然と笑いが生まれる。
紗英ちゃんも加わり、「ここ、選択肢まちがえたやつ!」と見せてくる。
「これ、文脈的に“look out”だと思う」
「そっか〜! やっぱりひよりすごいね!」
褒められたことに、まだ少しだけ戸惑いがあった。
けれど、それ以上にうれしかった。
途中、ペンが見つからなくて焦っていたわたしに、一ノ瀬くんが黙ってペンを差し出す。
「これ、使って」
「……ありがとう」
静かな時間。
それでも、心は少しずつ温まっていく。
小さなことの積み重ね。
笑い声、目が合うタイミング、手元を指差しての確認作業。
そんな些細なやり取りが、わたしにとっては大きな一歩だった。
「……ひより」
紗英ちゃんが声をかけた。



