君の隣が、いちばん遠い



期末テストが近づいてきたある日。

昼下がりの教室に、英語の小テストが返却される音が響いていた。


久遠直樹先生──担任であり英語教師の彼は、生徒たちから人気のある人物だ。

30代前半、ゆるいパーマ髪にラフなシャツ姿、いつも手には紅茶のマグカップを持っている。


「一ノ瀬、100点。安定してるな。さすが」


軽く答案用紙を掲げながら、久遠先生が微笑む。


「ありがとうございます」


一ノ瀬くんが自然体で答えると、教室の一角から小さく拍手が起きる。


「佐倉、こちらも100点。いいぞ」

「……はい」


わたしは静かに頷き、答案を受け取る。いつものことなのに、なぜか胸の奥に温かさが灯った。


こうして名前を呼ばれて褒められること。

それが、ほんの少し嬉しかった。


「岸本、71点。惜しかったな」

「うえ〜ん、あと少しで80点だったのに〜!」


紗英ちゃんが机に突っ伏して嘆く。