試合後、4人で駅までの道を歩いた。
柊くんは水分補給をしながら、試合のプレイを振り返り、紗英ちゃんがつっこみを入れる。
「お前、3ポイント決めたときめっちゃドヤ顔してたぞ!」
「いやいや、あれは計算だったから!」
「計算だったらもっとスマートに決めなよ!」
ふたりの漫才のようなやり取りに、わたしと一ノ瀬くんも笑いながら耳を傾けていた。
駅前に差しかかったところで、一ノ瀬くんが言った。
「俺、佐倉さん、送ってくよ」
「えっ、でも──」
「大丈夫。別に遠回りでもないし」
紗英ちゃんがにやにやしながら見ていた。
「ひより、しっかりねー」
そう言って、柊くんと共に駅の改札へと消えていった。
帰り道。
日が暮れ始めた道を、ふたり並んで歩く。
さっきまで賑やかだった時間が、ふっと静かになった。
「今日……ありがとう。誘ってくれて」
「俺も、楽しかったよ」
しばらく沈黙が続く。
でも、その沈黙は以前よりも自然なものだった。
ふと、立ち止まって、言葉を探すように口を開いた。
「ねえ……今度また……」
続きが言えずにうつむいたとき、一ノ瀬くんがそっと微笑んだ。
「うん。誘って」
はっきりとは言えない。
でも、ちゃんと伝わっている。
そんな気がして、そっと頷いた。
小さな勇気と、小さな希望が、ゆっくりと胸の奥に灯っていた。



