「じゃ、またね。……変なこと言ってごめん」
その背中を見送ったわたしのところに、紗英ちゃんがやってきた。
「ひより、大丈夫?」
「……うん。なんでもない」
「うそ。なんでもない顔じゃないよ」
笑おうとしたけれど、うまくいかなかった。
「でも、羽柴さんの言い方、やさしかったよ。……あの子、不器用だけど、悪い子じゃない」
「……そうだね」
紗英ちゃんは、そっとわたしの肩を叩いた。
「ひよりはひよりのままで、いいと思うよ」
その言葉に、胸がじんとした。
その日の夜、ノートを開いて、文字を綴っていた。
『好きって、言ったら、何かが壊れそうで。だけど、言わなかったら、何も始まらない気がして。』
ページの余白に、そっと手を置く。
言葉にならない感情が、そこに確かに存在していた。



