「文化祭、お疲れ。カフェ、けっこう盛り上がったね」

「……うん。みんな、がんばってた」

「佐倉さんもね。接客、慣れてないのに、よくやってたなって思った」


少し間が空く。

羽柴さんは目線を外し、笑みのような、でもどこか複雑な表情を浮かべた。


「ねえ、正直に聞いていい?」

「……うん?」

「一ノ瀬くんのこと、好きなんでしょ」


一瞬、教室の喧騒が遠くなる。


「……え?」

「なんとなく、わかるよ。だって、佐倉さんって、一ノ瀬くんを見るとき……すごく優しい目してるから」


その声に、敵意はなかった。ただ、ほんの少しの嫉妬と、少しの尊敬。


「わたし、ちょっとだけ悔しかったの。いつの間にか、彼が佐倉さんのほう見てるなって、気づいたとき」


わたしは何も言えなかった。羽柴さんの言葉がまっすぐで、痛いほど響いた。


「でもね、佐倉さんのそういうとこ、ちょっとかっこいいなって思ってる。……正直、私にはできない」


そう言って、羽柴さんはすっと立ち上がる。