「佐倉さん?」


白石くんが不意にわたしを見る。


「……はい」

「噂通り、静かだけど芯があるって感じ。遥が気にするの、わかるかもな」


その言葉に、わたしは一瞬言葉を失った。

けれど、その視線はどこか悪意のない、まっすぐなものだった。





午後、少し落ち着いてきたころ、交代で休憩時間が与えられた。

教室の裏手、給湯室前のベンチで柊くんと紗英ちゃんが会話していた。


「羽柴さんってさ、ちょっと佐倉さんに突っかかってる感ない?」

「うん。あれは“気にしてる証拠”ってやつだよ。女の勘」

「女の勘、万能かよ……。でもまあ、確かに羽柴さんの目つき、戦ってる感あるわ」


笑い合うふたりの会話に、空気がやわらぐ。


「でもさ、佐倉さんってほんと変わったよね。なんか、ちゃんと“ここにいる”感じする」

「うん。最初は声かけてもすごく遠慮がちだったけど、今はちゃんと返してくれるし……むしろちょっと可愛い」

「おいおい、俺が聞いてるんですけど」