朝の教室には、今日もまだ誰もいなかった。

冷えた空気中に、木の机が並んでいる。

静かな埃の匂いが、窓から差し込む朝の光と混ざり合って、ほんの少しだけ、昨日よりやさしく感じられた。


わたし、佐倉ひよりは、教室のいちばん前の列、窓際の席に静かに座っていた。

机の上に広げた問題集のページをめくると、指先がわずかに震える。


寒さのせいか、それとも、ただの癖なのかはわからない。

制服のポケットに手を突っ込んでいた時間が長かったせいで、指の感覚が少し鈍っていた。

それでも、ペンを握る手は、いつものように軽やかに動き始める。


——今日も、一番乗りだ。

モノローグのように、心の中で静かに呟いた。


それは、日課であり、同時に“避難”でもあった。


家を出たのは、6時台。

最寄り駅のホームで制服の男子たちを何人も追い越しながら、誰よりも早く学校へと向かっていた。


努力家でも、真面目でもない。ただ——

——家には、いたくなかったのだ。