「彩蝶達はなかなか優秀だから、ある程度、起こったことは把握出来ていると思う」
「父上がそう仰るならば、そうなのでしょうね。そちらには、いろはも無事に帰られたようで……最愛を救うため、こちら側に身を落とした皇には苦労をさせました。皇に与えた祝福は、普通の人間よりも少し長生きする程度で収まると思います。どうか、お幸せにとお伝え願えますか」
ルナの願いに、契は首を傾げる。
「自分で伝えてあげれば良いだろう?」
「……。御冗談を。父上のせいで、少し認知が歪んでいるのではありませんか?」
「?」
「本来、神と人は交わらない存在ですよ。契」
「……っ!」
「─勿論、線引きが曖昧になっている、こちら側にも責任はあるがな。我々は生みの親であるユエがいる限り、そちら側の願いには不服でも召喚されてしまう。魂そのものは創世神たるものだろうが、その身が人間となってしまったがゆえ、半神のような状態になっているようだが、それでも尚、我々は抗えないのだ。父上の気配を感じ、自ら姿を顕してしまうほどに」
「ステラの言う通りです。でも、我々は本当は人間にあまり介入するべきではありません。いくら、神々の祝福を得た家の、四季の人間であったとしても、応えるわけにはいかない」
人間の世界に、神様が関わること。
─それは、この世界の理を狂わせる。
「理が狂えば、どこかで調整しなければならなくなります。例えば、時戻りによる代償、とか」
「それは」
「ええ。お会いしたのでしょう?彼に」
「……知っていたのか」
「もちろん。彼は、こちらでお預かりしていた存在ですし。あの方は過酷な運命も負けず、自らの身に時空を移動し、過去を変えたことに生じた歪みを背負われた。その結果、1度、命を落としましたが─……四季の家を長い間、ひとりで見守られてきたある御方が、自らの一部を与えることでお救いになられました」
「ある、御方……」
「ええ。─かつての、父上の一部です」
ルナにそう言われ、ユエは目を丸くした。
「俺の……?」
「はい。泉が生まれた時、父上が己の黒い感情を泉に封印された時、零れ落ちた良心が、父上が抑えきれなかったものをはじめとして、人々の憎悪を、悲しみを、そういう負の感情を全て吸い込んで、父上が生み出した大きな歪みを片付け始めました。本人はそれを苦痛と感じておらず、単なる善なる心を持った行動として、数え切れないくらい時を渡り、所謂“運命”が、本来の流れが正しく動くように、その身を切り刻みながら、存在していた神様がいるんです。我々は『刻の守人』─『刻神様』とされた父上を守るものとして、そう呼んでいます」
「調律者は、そんな守人が救った愛し子の拾い物。父上が察知できないのは当たり前で、操ろうとしても無駄なんだ。【役職】持ちは少ないが、その全員が守人から生まれた存在。守人が父上に戻れば、話も変わるかもしれないが……」
もう一度、溶け合えば。
─でも、それはひとりは消えるということ。
そんな非道なこと、今のユエは望まないだろう。
何故なら、ユエは永遠に失ったはずの最愛を、人として生まれ変わったことで、取り戻した。
記憶すらほとんど忘れていた程で、善なる心だって、ユエは既に持っている。だから。


