それでも、あなたを愛してる。【終】




「創世神の生い立ち?はもう知っていると思うが、創世神は最愛を亡くしたあと、時の泉のように、化け物のように、良心の一部を、欠片を落とされた。その欠片は人の悪意を吸っていたが、それを善意に変え、己の養分とした。そうするくらい、当時の創世神の心は闇に染っていて、それらから逃れるように光の部分が欠けてしまったのだろう。人の善意や悪意を吸い続けて、長い年月をかけて、実体を取れるようになったあの方は穏やかで優しい、自由人だった。そして、そうなって初めて俺の前に現れた彼は、俺が遠い未来軸で殺された時に狂いそうになった魂を捕まえてくれた方で。俺を泉に叩き落とし、化け物を完全に掌握していたことを覚えている」

「つまり、綴を生き長らえさせた存在ってこと?」

「そういうこと。あの方からの祝福で、俺は生きてる。元々、あの方は創世神が孤独だったタイミングで俺と出会っていたから、未来で俺を助けた時に、時間軸の悪戯、乱れだと気づき、わざわざ時を渡って、人間だった美言や死んでしまった美幸達にも、祝福を与えてくれた。だから、美幸は今も生きていられる」

急な登場人物情報は、本当にやめて欲しい。
でも、綴がここまで真っ直ぐな目で語るような方だから、本当に素晴らしい方なのだろう。

穏やかで優しい自由人というのがどんな感じなのかは想像はつかないが、気難しいはずの綴が素直に褒めているので、恩人というのもあるだろうが、彼の人柄がそうさせている気がする。

ひと月になることがあるとすれば、未来がそうなるとわかっていたならば、そもそも、美幸の死を止めることや、美言が仇の子を産むことも……。

「─一度、そうあらねばならなかったんだよ」

綴は刹那の考えていることはお見通しだと言わんばかりに微笑み、

「美言の御両親の結末は勿論、美言がその運命を辿ることで、他の歪みを防いだ。そして、美言が一度婚姻をすることで、世界に美幸の存在を刻み付けた。同時に、美幸が亡くなり、美言がいろはと出会い身を投げることで、一連の流れは完成し、美言は俺の元へとたどり着く」

「……」

「美幸の存在は刻み込まれたことで、この世界に残る。あの子の魂は守人によって守られ、美言と再会した俺との間に授かった肉体に、その御魂を降ろした。─まだ、人であった時間が近いお前には分からぬ感覚だろうが、俺までになると、“それでも”と焦がれる。美言のように最底辺の絶望を知れば尚更、“それでも”と。─お前は、そこまで堕ちてくれるな。俺達のようにはなるなよ」

全てを見通すように言い切った綴は微笑みながら、呆然とする刹那の頭を撫でた。

『“それでも”、貴方が好きだよ』

─嗚呼、あの頃の。
泣かせないと誓ったのに。
その約束を、自分は違え続けたまま。