それでも、あなたを愛してる。【終】




「この世界の形に、【運命】なんてものはなかった。何故なら、創世神がそういう男だったからだ。創世神は己の欲に忠実であり、好奇心が旺盛だったあの方は色んなものに手を出した。そして、人が繁栄していく中で生きていくことに困難さを感じ、苦しみや悲しみを、己の中に封印し始めた。そして、伴侶を生み出し、伴侶のための世界を創り出した。
一方で、創世神の能力をおこぼれでも貰っていた人は知恵をつけ、集落を作り上げた。
─創世神は必要なものしか生み出さない。伴侶のために必要ならば、嵌らぬピースでも嵌め込むような人だ。ならば、【運命】など定めない」

「……」

「俺はずっと見てきた。お前と同じように策略で殺され、時の渦に巻き込まれ辿り着いたあの日……創世神が孤独の時から、この異空間の中でひとり……あの頃と比べて、今はすごく賑やかになったな」

「…………創世神が、孤独の頃から?」

長い間、独りだったのは知っている。
でも、そんな昔からなんていう事実は初耳だった。

「言ってなかったか?」

彼は目を丸くして、首を傾げた。

「聞いてないよ!?」

「そうか。でも、まあ、そういうことだ。だから、俺は生き証人だな。創世神のことを長く見てきた、元人間。と言っても、この身はもう現実世界で滅んで、地に還っているが。俺と同じくらい見てきたのが、『刻の守人』だな」

「いや、誰」

「ふむ。これも話してなかったか。そうだな……時の泉が出来、化け物が創世神から切り離された時、一緒に零れ落ちた良心の欠片が具現化した存在だ。未来、現在、過去の全てを思うのままに操れるはずだが、最近は大人しくしているみたいだな。何故か肉体を持っているが、もう数千年は生きている存在だよ。肉体は知らんが、勿論、創世神の欠片だから人間ではない。俺も零れ落ちた瞬間しか見ていないから、何とも言えない。けど、今も現実を彷徨いているのは事実で、別にこちら側を避けているわけでもないようだから、そのうち、向こうから会いに来ると思う」

「……いやいやいや」

もう既に頭がこんがらがって、外に遊びに行くというか、溶け込みにいける状態じゃない。

「ちょっと待って!?俺、術を使って、皇を介した嫌がらせを創世神にしたんだけど!?」

「ああ、あれは面白かった」

「えげつないことって、ルナは引いてた」

「ルナからすれば、親だからな。創世神」

「……なんで、そんなに綴は落ち着いてるの?創世神が怖くないの?人間として終わりを迎えた今、『役目』がある綴は創世神の期限を損ねる訳にはいかないんじゃ?」

「理論的にはそうだろうな。実際、ルナ達が恐れるように、朝霧たちも創世神を恐れている。あの偉大な御魂を前に屈している。けど、俺は、俺の生命線を握っているのは、創世神ではないから」

「?、つまりどういう」

「フッ、その顔、初めてここに来た時の表情とそっくりだな。美言曰く、現実で幼子の疑問を抱きやすい時期は『なぜなぜ期』と言うらしいぞ。あの時もそんな目をしていたが、そうだな。まぁ、一言で言えば、親が創世神ではないから、だな」

綴はそう言いながら、どこからか紙を取り出すと、簡易にまとめてくれた。