『─ねぇ、化け物って本当にいるのかな』
夜。唐突にいろはの部屋に訪ねてきた彼女は、月夜の下でそう聞いてきた。
『化け物がいたら、どうするんですか?』
『んー……?食べてもらいたいなぁ』
いろはの質問に、そう答えた彼女は泣いていた。
声が枯れるまで泣いて、そして、話を聞くと、
『赤ちゃん、死んじゃったんだ』と、笑った。
いろははなんて言えば良いのか分からなくて、言葉を詰まらせた。
『殺されちゃった。生まれてすぐに取り上げられてさ、一度も抱っこしないままだったけど……なんでかな、ずっと涙が止まらなくて……』
だから、いろはは抱き締めた。
そんな酷いことをする人間が、自分の先祖である事実を恨めしく思った。
『……なのにね、次の夫がね、決まったの』
『次?』
『死んじゃったから……赤ちゃんも能力を持ってなかったみたいで、赤ちゃんに能力がないのは、父親が無能力者だからって……だからね、いろは』
泣いていた彼女はその夜、とても美しかった。
『もう、終わりにしたいの。大好きな恋人も殺されて、家族も、赤ちゃんも殺されて、私、もう耐えらない。化け物に食べられて、恨みの一部となって、この家を滅ぼしたいの』
『美言さん……』
『わかってる!悪い人ばかりじゃないんだって……でもね、貴女がいる未来だと分かっていても、私はそこまで生きられないから……弱くてごめん、ごめんね。いろは……』
謝らなくていい、と、いろはは思ってしまった。
だって、そんなの、こんなの。
『それでも、私は、もう、生きるのが嫌……』
いろはは、彼女を抱き締めた。
抱き締めて、彼女に赤ちゃんの居場所を聞いた。
美言の部屋だという部屋に一緒に向かうと、その部屋は暗くて、静かで、その部屋の真ん中、桐箱の中。
やせ細った赤ちゃんが、綺麗な布に包まれて眠っていた。─誰が見ても、大切に育てられていなかったことは明白で、美言さんも知らないところで、愛も知らずにこの子は命を落としたのだ。


