「─“生贄伝統”」
「お姉ちゃん……?」
彩蝶が呟いた言葉に、いろはが反応を示す。
皇が慌てたような素振りを見せて、彩蝶は。
「いろは、辛いことを思い出させてごめん。でも、教えて欲しいんだ。【生贄】とされた時代にいた間、経験した記憶を」
「【生贄】?……ああ、あれ」
「辛いよね」
「でも、それがみんなのためになるなら。契約の縛りで、本当の歴史は残ってないんだよね。皇が前にそう言ってたし」
「でも、いろは」
「話すだけだから、大丈夫だよ。皇。それに、喰われる前に助けてもらったし。怖くなっても、皇がギューって抱きしめてくれるでしょ」
そう言ってはにかむ彼女は皇に身を預けて、
「時の泉に捧げられて、このまままた、どこかに飛ばされないかな〜とか思ってたらね、多分、皆が話してる調律者が来たの。それで、『あ、俺と同じだ』って笑いながら、抱きとめてくれた。『悪者は退治したからね、大好きな人の元に帰ろうね』って。温情か、逃げられないためか知らないけど、直前に薬を盛られてたから、すぐに意識飛んじゃって。目覚めたら、知らない部屋で私は寝てた。皇が飛び込んできた時は、本当にびっくりしちゃった」
恐らく、逃げられないため、だろう。
残酷なことだ。
「生贄伝統はね、どの時代にもあったよ。司宮家が産まれてからは、幽閉って感じだったけど……幽閉された人たちのことも全員、司宮家が助けてたよ。でも、それを昔からいる人達は認められなくて、司宮家初代が死ぬ前に禁じた生贄を泉に捧げるのを、また実行したんだ。その結果、国に大災害が齎された。神の怒りだと、一部の人達は騒いでいたよ。私は何とか被害なく、泉に飛び込んで、また時代の波に呑み込まれたんだけど、その後からはまた幽閉に戻ってた。司宮家が邪魔になった彼らは、初代の息子夫婦を殺して、その夫妻の三姉妹を売り飛ばしたりして……三番目の子はね、無理やり妻にされてた。私、何も出来なくて、生まれてきた子は四ノ宮家の子どもってことにされて、それで」
言葉が段々詰まっていく、いろは。
いろはの瞳がどんどん潤んでいく。
当時を思い出しているのか、震える肩を皇が支える。そして、いろはは口を開いた。


